2018年8月19日日曜日

サマータイムはオリンピックの暑さ対策にならない

オリンピック・パラリンピックの猛暑対策として、森喜朗元首相(東京オリンピック・パラリンピック組織委員会会長)が、「日本でも2年間限定でサマータイムを導入すべき」と安倍首相に提言したことが話題になっています。

これ、全くもって見当違いの提言です。
なぜなら、サマータイムは猛暑の解決手段にならないからです。

だって、考えてもみてください。
サマータイムとは、夏の間だけ時計の針をみんなで「せーの」で1時間早め、夏が終わったら「せーの」で1時間遅らせることです。
言い方を変えれば、今まで9時と呼んでいた時点のことを夏の間だけ8時と呼びます、ということです。

単に時計の針を動かすだけですので、気温は全く変わりません

例えば、最も暑い12時~15時頃の気温が35℃だとしましょう。
サマータイムを導入しても、最高気温そのものは、当たり前ですが変わりません。
今まで一番暑かった時間帯が1時間ずれるだけです。
つまり、11時~14時頃の気温が35℃になるだけです。
その時間帯に実施される競技は、相変わらず猛暑の中で行われることになります。
暑い中で競技をしなきゃいけない事実には何ら変わりがありません。
ずらす時間幅が2時間になっても同じです。

オリンピック・パラリンピックは、ご承知のとおり、朝から夜までスケジュールがびっちりで、大体いつでも何らかの競技が行われています。
サマータイムを導入しようがしまいが、最も暑い時間帯のみを避けて競技時間をスケジューリングすることは不可能です。
というか、それが可能なら、初めからサマータイムなど導入しなくても良いわけで。。。

以上から、サマータイムはオリンピック・パラリンピックの暑さ対策にはなり得ません
オリパラ対策のためにサマータイムを導入するのは意味がありません
賛成とか反対とか以前の問題です。

また、このサマータイムはマラソンを念頭に導入を提言しているようです。
であれば、マラソンの開催時刻を早めればよいだけです。
日本は北海道から沖縄まで、UTC+9の単一の時刻を採用しています。
「東京オリンピック・パラリンピック」の「マラソン」のためだけに、日本全体で時刻を早める必然性が全くありません
交通手段がないなら、臨時列車・バスを走らせたり、タクシーを使えばよいだけです。
鉄道会社やタクシー業者、利用者が困るなら、助成金を出せばよい話です。
日本全体でシステム改修をするコストより、はるかに安上がりです。


ちなみに、このサマータイム、新聞の世論調査ではなぜか賛成が多い模様。
私の周囲で賛成している人を見たことないのですが。。。
他方、ネットでは、情報システムへの影響とか、残業が増えるといった理由での反対意見の方が多く見られます。
これはこれで、ちょっとピントがずれている気がしています。

情報システムへの影響は、確かに深刻な問題です。
準備時間は圧倒的に足りないと思います。多額のコストもかかります。
システム管理者の苦労や苦悩も重々承知しています。
トラブルを100%回避することも現実的に不可能でしょう。
サマータイム導入反対の理由としては十分理解できます。
ですが、理論的に「できない」ことではありません。
多大なコストやリスクを上回るだけのメリットが見いだせるのであれば、国策として実施するという選択肢がないわけではありません。
(もちろん、現時点ではそれほどのメリットは見いだせていません)

「残業が増える」という意見は、論点がずれています。
9時5時で働く人は、ずらした後の時間軸で9時5時で働くだけです。
1時間長く働くことには理論的になり得ません。終電の時間だって変わりませんし。
明るいからついつい残業するというのであれば、それは働き方がそもそも悪いのであって、時刻の問題ではありません。
そういう人は、サマータイムがなくても、日が短い冬よりも日が長い夏の方が残業時間が長いのでしょう。
いずれにせよ、サマータイム特有の論点ではありません。

ちなみに、「北海道サマータイム」の実証実験を持ち出す人がいますが、あれは世の中の時計は動かさずに、独自に勤務時間を1時間早めただけです。
サマータイムとは似て非なる全く別のものですので、比較対象になりません
あの仕組みでは、心理的に残業が増えるのは当たり前だと思います。


なお、オリンピック・パラリンピックを抜きにして、恒久的な制度としてサマータイムを導入するという意見であれば、まじめな話、検討の余地はあると思います。
ただし、メリット・デメリットについてエビデンスに基づく十分な議論と、国民的な世論形成が必須です。
とても1年や2年で結論づける話ではありません。

「オリパラのため」のサマータイムは、乱暴なうえに、全くの無意味です。