「昔はすごかった。花見をすれば事業者が酒を持ってくるし、委託先には飲み代払わせるし、年末には黙っててもビール券が集まった。今じゃ考えられない。古き良き時代の話だよ。」
霞が関官僚が権力をたてに業界から不当な利益を得ていた異常な時代を揶揄して、「古き良き時代」と言う人がいる。もちろん「揶揄して」言っているのであり、本人もその時代が異常であったことは分かっている。
しかしながら、冗談でも「古き良き時代」と美化した表現を使うべきではない。「良い」わけがないのだ。
霞が関官僚が激務なのは分かるし、国民の生命を預かる重責も、それゆえに常に批判にさらされる重圧も分かる。その割に国会からの理不尽な仕事に振り回される無情さもよく理解する。だからといって、特定の業者や個人から仕事の見返りとして仕事以外のところで利益を得ることは許されない。公務員は全体の奉仕者であると憲法が定めている。「良い」という冗談は国民感情から言って到底理解されない。
異常な「古き良き時代」の結果、猛烈な公務員バッシングが起こった。これを受け17年前に国家公務員倫理法が定められ、そういった利益を得ることは厳しく規制された。以降、ベテラン公務員にも徐々に認識は変わり、そういう極端な事例は激減した。しかし、公務員バッシングは依然として残り続けている。
そんな変化の後に霞が関官僚になった者からすれば、公務員が権力をたてに個人の利益を得るなんて行為は絶対悪であり、考えも及ばない。そもそも公務員が「儲からない職業」であることを知っているので、自ずと使命感と責任感のある者しか目指そうとしない。
先人たちの努力で悪しき文化は変わっている。それを冗談でも「良き時代」などと言っては、築き上げた信頼を一気に崩してしまう。
※フィクションであり実際の出来事とは関係ありません